薩摩切子 × 本場大島紬
鹿児島の伝統工芸の未来を語る

一度は途絶えた薩摩切子を現代によみがえらせた、ガラス工芸家の中根櫻龜さん。
情報誌『つむぎ折折』で掲載しきれなかった、薩摩切子の魅力や伝統工芸への想い、
本場大島紬への期待などについて紹介します。

薩摩切子

ぼかしの美しさが人々を魅了する薩摩切子

ー薩摩切子は色のグラデーションが美しいですね。

中根さん 薩摩切子は透明ガラスの上に厚い色ガラスを被せて削ることで、色の濃淡を繊細に表現できます。
薩摩切子ならではの「ぼかしの美しさ」は、卓越したカット技術によって生まれたもの。ガラスの重厚感だけでなく、どことなく感じられる温かさ、直線的な伝統文様、流れるような曲線美で、多彩な表現ができるのも魅力です。

復元品から創作品、新しいシリーズで薩摩切子の魅力を広げる。

ー途絶えていた薩摩切子とどこでつながったのですか?  

中根さん 小学生の頃からガラスに興味を持ち、美大卒業後にガラス工芸の専門学校へ入学しました。ちょうどその頃、薩摩切子の復元の話があり、恩師の勧めで鹿児島へやって来ました。 技術的に参考になる資料も少なく、現存する薩摩切子を実測し、必要な工具の種類を作るなど悪戦苦闘の日々でした。

ー復元への想いを支えていたのは何だったのでしょうか?  

中根さん 薩摩切子の復興を楽しみにしている、地元の方たちの期待に応えたいという想いがありました。途絶えていた薩摩切子の百年の歴史を埋め、次の世代につなげること。 最初の十年は薩摩切子を広めるために、江戸時代の復元品を多く手掛けました。さらに、当時のデザインを踏襲しながら、現代のライフスタイルに合わせた創作品、薩摩切子に新しい風を吹き込む『二色衣(にしきえ)』や『思無邪(しむじゃ)』シリーズも展開しています。

薩摩切子

全ての人がわくわくする、いい意味で期待を裏切る
ものづくり。

ー次の世代につなげるために必要なことは何だとお考えですか?

中根さん いつの時代も魅力あるものを作らなくてはいけません。お客さまはもちろん、作り手、売り手、関わる全ての人がわくわくする、いい意味で期待を裏切る魅力あるものづくり。
魅力と価値は価格に比例すると感じています。価格に見合った技術を提供しているという誇りを持つこと。この値段で当然だと思ってもらえるような製品を作り続ける姿勢も大切です。

ー魅力あるものを作り続けるためには、後継者の育成が大切ですね。  

中根さん 当社の薩摩切子に携わる職人は約30人、平均年齢は30代です。若い世代の希望者が多いのはとてもありがたいです。女性の職人である私が取材を受けることが多いせいか、女性が働ける職場というイメージがあり、若い女性の職人も増えました。
5年を目標にカットの技術をレベルアップさせていきますが、若い職人のモチベーションを保つことにも心を配っています。猪口(ちょこ)、グラス、花入れといった具合に、常に次の目標を掲げています。

使う人の立場に近い人が作ることでニーズは生まれる。

ーものづくりで心掛けていることは何ですか?

中根さん 使う人の立場に近い人が作ることでニーズは生まれます。女性が着ることの多い着物もそうですが、使う人に寄り添ったものづくりは大切ですね。着物は普段使いというより、特別なときに着るイメージがあります。着物を身近に感じてもらうためには、その機会を作る仕掛けも必要です。
大島紬を見て感じるのは、高い技術を生かした多彩な表現ができる伝統工芸品だということ。これからもバリエーション豊かな大島紬が作れるように、たくさんの方に大島紬の魅力を知ってもらう手立てが必要だと思います。


インタビューを終えて…

大島紬も、新たな市場形成を視野に入れ、衣食住などのあらゆる生活シーン、幅広い世代をターゲットに、SDGs、グローバリゼーションなど、時代の要請に応じた新商品の創作・開発に取り組まなければならないと考えています。これからの時代を見据えながら、消費者ニーズをきちんと把握し、対応していく重要性を感じています。今回いただいたアイデアは、組合としても新たな取り組みの一つとして検討してみたくなるものでした。貴重なご意見をありがとうございました。

本場大島紬織物協同組合


中根 櫻龜

Profile

中根 櫻龜
(なかね おうき)
Nakane Oki
(株式会社 島津興業 取締役 薩摩ガラス工芸部長)

兵庫県生まれ。熊本県立第一高等学校を卒業後、武蔵野美術短期大学を経て、東京ガラス工芸研究所に入学。1984年 同研究所を卒業後、島津観光株式会社(現・株式会社 島津興業 取締役 観光事業本部)へ入社。薩摩切子復元に着手。1985年 薩摩切子を復元。二色の色被せによる新薩摩切子『二色衣(にしきえ)』のほか、透明・真珠白・墨黒の『思無邪(しむじゃ)』シリーズなどを開発。2010年 薩摩切子復元25周年を機に、島津家第32代当主より『櫻龜』の雅号を拝命。直線的な幾何学模様の復元品だけでなく、曲線を用いた優美な作品で現代の薩摩切子に新しい息吹をもたらす。ガラス工芸作家として国内各地で個展を開催。2022年7月にも日本橋三越本店美術特選画廊で個展を開催予定。